ひと・人

テレビ朝日系の日曜日のスペシャル番組「ビフォーアフター」に七尾市の中塚邸に引き続き、金沢市寺町の中村印舗さんの住宅設計施工が放映されたものですから、皆さんに話題を提供することになったのです。
中村さんは松任市にお住まいだったのですが、お父様の店があった寺町に最後は住みたいと、たった九坪の敷地に店舗を兼ねた住まいを望まれました。しかも老夫婦の生活のため二階までとの条件でした。
私は商業施設は得意なジャンルなので、はんこ屋の作業場と接客を同じコーナーとし、完成した印鑑陳列棚は居間との間の戸に収めました。戸の開閉時に印鑑が落ちないように収納桟をわずかな傾き仕上げにしてあります。
私の実家も店舗付き住宅だったので、狭いスペースの使い勝手は他の設計士さんには負けないつもりだと思います。それに家づくりは周りやその町並みとの調和も大切です。この中村家は小さいけれど、寺町の寺院郡に如何にマッチさせるかを考えました。町並みとはそこにある建物がすべて同一ではなく、個々の建物がそれぞれの特色を出しながら、全体として調和がとれていることが大切なことなのです。
最近修復とか復元とかが叫ばれているが、古いものをそのままの形で残すのではなく、そこに住む人たちの利便性や機能性を重視したものにすることが大切なのです。工芸の世界でも、単に継承するだけの発想では将来的なつながりが希薄になり、伝統という部分でしか評価されなくなります。これに創生という部分を新たに加えてゆくと、後生には又違った、より洗練されたものが受け継がれてゆくと思われます。
私が建築士になったきっかけは、受験浪人に終止符を打ったところが、たまたま武蔵野美術大学の建築学科だったことと、小さい頃から機械いじりが好きだったことが重なり、アート的な建築や機能性を重んずるようになったのでしょう。
これからの住宅はその町並みに違和感がなく、かと言って自己表現できる建築が必要になってくると思われます。私が美術大学出身ということでデザインのことばかり口に出される方が多いのですが、そもそも建築デザインというのは、機能性の中に始めて生ずるものであり、間取りのプランニングであったり、客のニーズであったり、客の個性を引き出すのが本来のデザインなのです。建物の評価は外見だけでなく、そこに住む人の使い勝手と個性を見て判断してほしいものです。
常日頃から心がけていることは、建主さんのためにすばらしい建築空間を提供することであって、建築デザイナーの自己満足ではないということです。
町づくりにスポットをあてると、生きた町とは世代交代があることです。建物もそこに住む人の成長や家族構成によって、増改築が行われるのが本筋であり、最近の住宅メーカーさんの、供給だけに力を入れているのに疑問を感じています。使い捨てではなく、世代交代を考えた建物でなければならないでしょう。(談・森田記)

(「石川自治と教育 581号/2004年)

竹中建築計画工房  HOME→